超デザイン概論(約20分)

超デザイン概論(約20分)— (文字起こし)
●ターゲット:デザイン経験のない学生

① 導入 — デザインは何をする仕事か 【〜6分】

日本でデザインを学ぶ学校は、大きく分けると専門学校と美術大学があります。専門学校は技術者を育てる場なので、かなり技術に特化して指導される。一方で美術大学は、考え方やデザインの本質を考えさせる授業が多い。ざっくり言えば、片方は”手”を鍛えて、片方は”頭”を鍛える場所です。

で、もったいぶらずに今日の結論を先に言ってしまいます。現場のデザインで一番効くのは、実は技術でも感性でもなくて、「読解力」と「コミュニケーション」です。これが土台にあって、その上に「表現力」が乗る。今日はこの全体像を、一枚の図にして持って帰ってもらうのが目的です。

順番に見ていきます。まず「デザインは知識がいる」という話から。単純に美しい色を並べればいいわけではありません。わかりやすい例だとユニバーサルデザイン。色のコントラストがないと視覚に障害のある方は判断できないので、これくらいメリハリをつけよう、という配慮です。こういうのは感覚だけじゃなくて、知識として知っておかないとできない。

色の話でもう一つ。バウハウスというデザインと建築を教えていた学校があるのですが、そこで教えていたヨハネス・イッテンという人が、色にも調和の法則があると考えて、色相環という虹状の輪っかの中に正三角形や正五角形を入れて、その頂点同士の色は調和する、という配色理論を体系化しています。トライアドとかテトラードとか呼ばれるやつです。【画像:イッテンの色相環/トライアド・テトラードの図】……ただ正直に言うと、私はこれ、感覚的にはちょっと違うなと思っています。これはピタゴラス以来の、数学に美を求める西洋の価値観を色彩にも求めたものなので、まあ感覚的には半分くらいは違うんだろうと。ただ、規則性を見つけたり再現性を持たせたりすること自体は、デザインにおいてすごく大事な要素です。だから「知識としての技術」は間違いなく必要になる。ここは押さえておいてください。

じゃあ知識さえあればいいかというと、そうじゃない。最後にものを言うのは、言語化できないセンス、感受性だったりします。タマビにも早慶や理科大を出てから入り直してくる人がいて、さぞロジカルで優れた作品を出すんだろうと思ったら、実はそうでもない。突出して魅力的だったのは、脳みそを思考じゃなくて感受性に全振りしたような、美大生特有の人たちでした。

……ところが、ここが大事なんですが、その感受性全振りの人たちは、卒業後にデザイナーを続けていないんです。美大を出てデザイナーとして生き残る人は驚くほど少なくて、理由のほとんどは「コミュニケーションが苦手だから」。モノローグは得意でも、対話が苦手なんですね。

私の恩師は、「デザインはコミュニケーション」だと言っていました。それはつまり、現状に不満はあるけれど、それを言語化できないクライアントがいる。そこにデザイナーが入って、不満を解きほぐして、問題解決を「かたち」にして提示する。この対話の力が、デザインの現場では何より効く。だから優先順位で言うと、まず ①現状の課題を読み解く読解力とコミュニケーション、その次に ②表現力、という順番になります。美大の”思考”と専門学校の”技術”の一番の違いも、実はここです。

さて、前置きが少し長くなりましたが、みなさんに実際のデザイン業務をやってもらうことに、緊張があるかもしれません。先に正直に言っておくと、美大生の視覚的なクオリティに正面から立ち向かうのは、よほどの才能がないと難しい。彼らは十代の放課後のほとんどを予備校でのデッサンと平面構成に捧げていて、そこに大学の四年が乗る。五年、六年の下積みがあるわけです。真正面から勝てるはずがない。デザインってのはそんなに簡単じゃないので、そこは一旦諦めてください。

ただ、要点さえ掴めば、かなり勝負できると思っています。その要点が、さっき言った表現力の中身、「観察力」「演出力」「形態感」の三つ。今日はこの三つを順番に話していきます。

② 観察力 — デッサンの正体 【〜4分】

まず観察力。表現力の土台になる部分で、感受性はここで磨きます。

デザイン力を鍛えるのにデッサンは確かに良い訓練です。でも、デッサン以外でもデッサン力は鍛えられる。そもそもデッサンって何だっけ、という話です。石膏像を描いたりヌードを描いたりするアレですが、あれをやると何が身につくのか。はっきり言うと、「グラデーションが見えるようになる」ことです。【画像:りんご、石膏デッサン】形が取れるとか構図が身につくとか色々ありますが、一番大事なのは光の陰影の機微を識別できるようになること。それができると、反射光が見えて、奥行きがわかって、輪郭が見えてくる。デッサンって、一言で言うと「光の観察力の訓練」なんです。

紙も鉛筆も今ほど無かった古代ギリシャの人たちは、いわゆる石膏デッサンのような訓練はしていない……まあスキアグラフィアといって厳密には線描も陰影の表現もあったんですが……それでも、現代人より圧倒的にすごい彫刻を作っていた。なぜかというと、観察力を鍛えまくっていたからです。周りにムキムキの人が半裸で歩いていた環境も幸いした。つまり、デッサンという”手段”そのものが目的じゃなくて、鍛えたいのは観察力のほうなんです。これは絵を訓練してこなかった人たちにはちょっと希望のある話ですよね。

なので、これから意識的に「観察」をたくさんしてください。対象は何でもいい。半裸のマッチョは周りにいないので、メイクの陰影でも、空に浮かぶ雲でもいい。絵画教室でよくりんごを描かせるのには理由があって、りんごって思った以上にデコボコしてるんです。よく観察しないと見えてこない。この観察の癖を、日常の中で自然に身につけてほしいと思います。

③ 演出力 — 平面構成 【〜7分】

次が演出力。美大受験でデッサンと並ぶもう一つの実技課題、「平面構成」の話です。聞き慣れないと思いますが、色彩と形を組み合わせて”ある感覚”を想起させる訓練、つまり演出の訓練です。

やり方を説明します。お題が出ます。例えばタマビで実際に出た問題で、「海の生物」を題材に「Strange」を表現しなさい、というのがありました。制限時間内にアクリル絵の具を使ってお題に沿ったポスターを描く課題です ……ピンとこないですよね。順番に演出していきます。

まず「Strange=不気味」なので、不気味な配色から考える。紫とか緑でしょうか。暖色じゃないし、パステルでもない。ディズニーのヴィランの色を思い出すとわかりやすい。あの毒々しい紫や緑って、直感的に不気味さと結びつく色なので、そこを参考にしましょう。

次にモチーフ。「海の生物」で魚を紫や緑で描けば、一応お題はこなせてます。でも20点。魚よりタコのほうが不気味だし、なんなら深海魚のほうがもっと不気味です。ここではチョウチンアンコウにしましょう。【画像:深海・チョウチンアンコウのイメージ】

さらに演出を足します。疑似餌に食らいついた小魚を、チョウチンアンコウが飲み込もうとしている。……でも、小魚とアンコウを横向きにただ並べただけだと、”状況説明”にはなっても”Strange”は伝わらない。そこで、光る疑似餌の奥に、シルエットで大きな口がぬっと広がっている、という見せ方にする。すると、得体の知れない何かの口に飲み込まれる瞬間、という不気味なストーリーが立ち上がってくる。深海なので背景は深緑、謎の魚は紫。……ここまでやって、ようやくテーマに沿った平面構成になってきます。

大事なのは、直感に響く色彩と、画面の構成力を、演出でひとつにまとめること。【画像:タマビ平面構成の作例を複数】参考に過去の作例を見てみましょう。「Lightをモチーフに光を表現しなさい」という同じテーマでも、見せ方で全然違う。電球をそのまま描いたら20点。でも、暗闇の中の光と陰を描いた作品のほうが、よっぽど”光”を感じる。

まとめると、テーマに合う設定を知識で左脳で考えて、感覚に響く色彩を右脳で作る。これが平面構成で、まあめちゃくちゃ難しい課題です。

④ 形態感 — 質感の再構築 【〜2分】

最後、三つ目が「形態感」です。これも美大受験ではよく使う言葉なんですが、実社会ではまず聞かない。「質感」に近いんですが、私の言葉で言うと「それをそれたらしめている要素」のことです。

丸い球があったとして、その材質は何なのか。テカリが入っていれば金属に見えるし、透けていればガラスだとわかる。このテカリや透けみたいに、”材質が何か”を伝える記号的な表現、これが形態感です。私たちは無意識に質感を判断しているんですが、その無意識を一回整理してその要素を再構築できると、あらゆるものに質感を”付与”できるようになる。

これを研究しておくと、ロゴやポスターに、モチーフに関連する形態感を足して、印象を作れるようになります。【画像:フリスクのパッケージ、ロゴ拡大】ちょうどここにフリスクがあるんですが、ロゴに残像みたいな表現が入っている。これは”疾走感”の形態感で、止まっていた頭がスッと動き出すような印象と結びついている。ちゃんとデザインの効果として効いているわけです。

⑤ まとめ 【〜1分】

今日の全体像を、一枚に戻します。【画像:まとめの図】

表現力 = 観察力 + 演出力 + 形態感の再構築
– 観察力は、感受性を磨く土台。
– 演出力と形態感は、”知識としての技術”として引き出しを増やしていく部分。

そして、その表現力の上に 「読解力」と「コミュニケーション」が乗る。現場で一番効くのは、実はここでした。

この全部を合わせたものが、私の考える「デザイン」です。技術はあとから積める。まずは日常の観察から始めてください。今日はここまでです。