演劇制作ユニットnu-ta『杏仁豆腐のココロ』宣伝美術

演劇ユニットnu-taの企画公演『杏仁豆腐のココロ』における、宣伝美術・宣伝写真撮影・ロゴデザイン・フライヤーデザイン・パンフレットデザイン・特設webサイトデザインを行いました。また、現在は公開されていませんが予告映像も作成しています。

『しみったれた部屋に住む、離婚前夜の夫婦』の物語です。当初はグラフィックデザインだけの依頼だと思っていたのですが、主催より実写ベースのアートワークを作って欲しいとリクエストがあったために、レンタルスタジオを借りて撮影を行うことになりました。宣伝美術というのは公演本番の舞台美術とは別であるため、演出家や舞台美術家の協力がありません(妙な話に思いますが、演劇はチラシを見切り発車気味に作るため、演出家たちはまだ準備段階のさらに前ということが往々にしてあります。チラシのデザインはプロデューサーが主導することが多いので、舞台上の演出と連動させたデザインになっていないことがあるのです)。そのため、戯曲の世界観を独自に解釈した上で表現する必要があり、精読した台本からイメージスケッチを描き、さらには図面の作図に美術用品の一覧表の作成、撮影スケジュールの構築といった入念な準備を自前で行い撮影に臨みました。

特にこだわったのは光の明暗です。当初より、和室特有の四角い天井照明をピンスポットに見立てようという演出意図を抱いていました。しかしそうすると真下に座っている俳優の顔にも影が濃く落ちてしまいます。その対策として、三脚を使って定点で撮影し、照明で俳優を照らした状態の素材撮りも行って、あとで合成してバランスを撮るという作り方をやってみました。天井照明も白飛びせずに蛍光灯が見えるよう、露出を変えて撮影した素材を合成しています。また画面全体の中で明度のバランスも細かく調節しており、俳優の顔に視線が誘導されるよう、障子や襖、ダンボールや衣服には様々なヨゴシをCGで乗せています。

今作のアートワークは、イメージスケッチ・写真撮影・CG加工・グラフィックデザインといった、今まで培ってきた技術に加えて、テレビドラマの美術と制作、台本の読解の経験を結集させたものになっており、自分の本領を発揮できたと思います。仕上がりも気に入っています。公演本番を見に行ったところほぼ同様のセットが組まれていたので、演出家にも舞台美術家に対しても、だいぶ影響のあるものだったと思っています。撮影を行った2020年9月は、舞台の表現活動はコロナ禍によって様々な制約が課されていました。街から遠ざかった観客の回復と、さらなる開拓のために何ができるかを模索しています。

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